今回のサウジ主導の原油安のメインの狙いは「ロシア潰し」であると当ブログでは以前から見做している。
だが、サウジの狙いはそれだけではないと見ている。おそらくサウジのもうひとつの狙いは「原油の時代を延長する」ことだろう。
今や米国は自前でガスを生産し中東の原油に頼らなくても済むような経済構造になっている。これに合わせるように日本もまた、水素社会構築を掲げている。現状、水素製造には原料として主に天然ガスが使われる。日本としては、治安の不安定な中東の原油よりも安定した米国や豪州からガスを輸入する方がメリットが大きい。このままだとサウジは日本という上客を米国に取られることになるだろう。水素社会の実現は日本にとってプラスである一方、中東の産油国にとっては悪夢なのだ。だからこそサウジは今、原油を量産して価格をギリギリまで引き下げることで(サウジは1バレル13ドルぐらいまでは耐えられるだろう)、米国のシェールガス生産を採算割れに持ち込みガス供給量を削減させようとしているのだ。
だが水素社会は日米両国が進める国策である。どのような原油価格であろうと今の方針は変えないだろう。
参考:
米国=技術開発やプラント建設計画が目白押し―水素エネルギーで
https://www.rim-intelligence.co.jp/news/select/category/feature/article/599605
米エネルギー情報局(EIA)の報告書(2016年1月20日付)によると、米国内の製油所では、水素の消費量が2008~14年の間で60%増加しているという。
水素社会実現は環境問題の解決策に有効であるだけではない。低迷するガス需要を盛り上げて米国のガス生産企業に福音をもたらすと同時に、日本が主導するFCVなどの水素関連技術を世界に売り込むチャンスにもなるのだ。原油価格低迷にあえぐ日米の石油関連企業も今後は水素を精製することで付加価値を付けてエネルギーを売ることができるようになるだろう。水素社会の実現は日米経済にとって絶好の好機なのである。
一方、新興国経済にとっては水素社会は悪夢となるだろう。CO2削減のために日本が開発する水素関連技術を買わざるをえなくなる時が来れば、これまで新興国が先進国からカネを無心するネタだった「CO2削減」が逆に強烈なブーメランになるからだ。
今は原油安政策で「肉を切らせて骨を断つ作戦」を実行し「原油の時代」を先延ばししようと必死なサウジだが、どこかで「ガスの時代≒水素の時代」に順応する必要は出てくるだろうし、そうしなければサウジという国は終わるだろう。日米と上手くやっていくにもサウジはどこかで必ず「水素社会」に靡かざるを得ない。
0 件のコメント:
コメントを投稿