2013年8月29日木曜日

米露ガスパイプライン主導権争いの場としてのシリアとトルコ。

https://surouninja.blogspot.com/2013/08/syria-and-turkey-where-battlefield-for-the-pipeline.html?m=0
シリア問題を“エネルギー安全保障”の観点から見ると非常に興味深い物が見えてくる。


August 21, 2012
やっぱりパイプラインだった シリア 情勢の裏 - ニュースの森
2011年7月、イラン、イラク、 シリア がイラン産の天然ガスを西へ運ぶため、イスラム パイプライン(Islamic Pipeline)建設に合意を示した。このパイプライン建設計画はイランの南パースで産出される天然ガスをイラク 〜 シリア を通り、そのまま地中海を抜けてギリシャまで伸びるという5,000kmに渡る壮大なパイプライン計画である。しかし、このパイプラインの計画を快く思わない人達がいたのがこの シリア の内戦の引き金を引いた。
このアサド大統領が調印したパイプライン計画の規模は100億米ドルにも上るため、シリアとしても中々旨味が多い。何せ、いつ実現するのか怪しいナブッコ(Nabucco)パイプラインに比べて3割も多い輸送量を誇るパイプラインとなるからである。しかしである。この計画はシリアからトルコへ向かって北上するのではなく、そのまま西に向かって伸びていく計画であるのだが、これを何としても阻止したい勢力がいるのである。

自由シリア軍(FSA)を支援するトルコ、カタール、サウジアラビアとNATO

ヨーロッパへ供給される石油と天然ガスのパイプラインのハブを担うことで影響力を高めたいトルコ、イランが天然ガスの輸出経路を持つことを快く思わないサウジ・カタール、これ以上自分たちの消費する天然ガスをロシアに牛耳られたくないNATO、そしてイランの宿敵とも言えるイスラエルとその下僕であるアメリカが自由シリア軍(FSA)を金銭面、物資面で支援しているのは周知の通り。
シリア で交差するアラブパイプラインとイスラムパイプライン

ここで問題となるのが シリア の立場である。なぜなら シリア共和国 にはエジプトを起点としてヨルダンから北へ伸びるアラブパイプラインがあり、すでにこのパイプラインをトルコのパイプラインへ接続する計画が進行中であったからである。これはEUにとってみても戦略的に重要な天然ガス源となるはずであった。なぜならエジプトから伸びるこのアラブパイプラインがトルコ国内を東西に走るパイプラインと繋がれば、EU諸国はロシアの息のかかっていない天然ガスを手に入れることができるからである。

ナブッコ・パイプライン - Wikipedia
これは欧州のエネルギー安全保障の観点からロシアのエネルギーへの過度の依存を避けるためであり、ロシアが主導する露ガスプロム社と伊Eni社のサウス・ストリームパイプライン計画のライバルプロジェクトと目されている。

2013.7.30 00:47
欧州にロシア回避のガスルート 初のパイプライン 2019年には実現予定 アゼルバイジャンから - MSN産経
【ベルリン=宮下日出男】アゼルバイジャンからロシアを通らず欧州に天然ガスを輸送する初のパイプラインのルートが決まった。欧州連合(EU)が進める計画とは異なるが、ガス輸入をロシアに依存するEUにとり、エネルギー安全保障上の課題である供給源の多様化に向けて前進した格好。2019年には欧州への供給が実現する予定だ。

ルートは、アゼルバイジャンからグルジアを抜け、トルコを横断するパイプライン「TANAP」を経由した後、ギリシャ国境からアルバニア、アドリア海を通るパイプライン「TAP」により、イタリア南部に到達するというもの。TAPはノルウェーやスイスの企業が進めている。
実はEU側も、ロシアを回避できるカスピ海や中東のガスを確保するため、トルコからバルカン半島を抜けオーストリアに届くパイプライン「ナブッコ」を推進。その後、ブルガリアを起点とする「ナブッコ・ウエスト」に規模を縮小し、シャフ・デニズ2のガス獲得を目指してきた。しかし、採算性などの面でTAPに敗北したようだ。

こうして見ると、シリアトルコは非常に微妙な位置に立たされていることが分かる。

今後シリアのアサド“親露”政権が倒れれば、ロシアは何としてもトルコに干渉したがるだろう。言うまでもなく、TANAPを妨害し、サウス・ストリームの安全と優位性を確保するためだ。

全方位外交を行うトルコのエルドアン政権だが、若しロシアが同政権の政策に不満を感じれば、トルコの「ムスリム同胞団」を煽って政権転覆を謀るかも知れない。勿論、そうなれば、米英は「世俗派」を煽って其れに対抗するだろう。(参考)

一方、「ロシアのトルコ干渉」よりは可能性として低いかも知れないが、TANAPの起点となっているアゼルバイジャングルジアにもロシアが干渉する可能性もゼロではあるまい。

俯瞰的に見れば、現在シリアを中心として中東で発生している問題は、日本が将来ロシアからのガスパイプラインを引いた場合に発生する問題の重要なテストケースとなるだろう。トルコから全方位外交のハンドリングの難しさを否応無しに見せつけられるわけだが、此処で生まれた最適解が将来の日本の国益に大きく寄与することは言うまでも無い。


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